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南郷刺し子の世界


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南郷刺し子の世界

南郷刺し子は半纏(はんてん)に刺しゅうします。2本取りした糸を使い、縁起が良い模様(麻の葉・亀甲・七宝・柿の花・山道・枡などを描いていきます。 全面にさまざまな模様が散りばめられた半纏は、全国的にも珍しいもの。時間をかけて作り上げた一張羅は、芸術の域にまで達するものもあります。

この特集では、南会津に伝わる伝統工芸「南郷刺し子」と、技術の継承と普及を目指して活動する「南郷刺し子会」についてご紹介します。

 

刺し子とは

南郷刺し子

南郷刺し子会

動画 南郷刺し子の世界

奥会津博物館 南郷館

 

 

 

刺し子とは

 
刺し子とは、日本に古くから伝わる伝統的な刺しゅうのこと。藍色をはじめ、濃い色で染められた木綿の布地に、白い糸で線を描くかのように、模様を施します。

刺し子の誕生は16世紀初頭とも伝えられています。一般的には、厳しい寒さをしのぐために、防寒や補強の一環として衣類に刺しゅうを施したものとされています。東北地方の刺し子文化が広く知られていますが、発祥については諸説あり定かではありません。

 

こぎん刺し
こぎん刺し(津軽 青森県)
  

津軽(青森県)の「こぎん刺し」、南部(青森県)の「菱刺し」、庄内(山形県)の「庄内刺し子」が有名で、日本三大刺し子といわれています。

民族学者の田中忠三郎が調査・収集した刺し子のうち、津軽・南部の刺し子着786点が国の重要有形民俗文化財に指定されています。学術的価値はもちろんのこと、芸術的価値も高い作品とされています。


 

南郷刺し子とは

 
《 南会津町南郷地域(旧南郷村) 》

昭和30年(1955年)、国や県が積極的に推し進めた昭和の大合併を経て、現在の南郷地域(旧南郷村)は誕生しました。南郷には北から越後の文化が、南からは関東の文化がそれぞれ流入するなど、文化が混合する地域として、多くの特色ある民俗的な事例が生み出されました。

その中でも注目すべきなのが衣生活の分野、すなわち刺し子文化です。かつては貴重だった木綿の布地を、繰り返し補修しながら、無駄なく大事に利用する生活の知恵。一針一針丁寧に進められる刺し縫いの技術が、母から娘へ大切に受け継がれていました。

 

《 南郷刺し子の特色 》

「南郷刺し子」の特色は、対象が半纏(はんてん)であること。2本取りした糸を使い、縁起が良い模様(麻の葉・亀甲・七宝・柿の花・山道・枡など)を描いていきます。全面にさまざまな模様が散りばめられた半纏は、全国的にも珍しいものです。時間をかけ作り上げた一張羅(いっちょうら)は、芸術の域にまで達するものもありました。

 

《 南郷刺し子で用いられる代表的な模様 》
 

麻の葉(あさのは)   
南郷刺し子   
成長の早い麻のように、子どもたちの健やかな成長を願うもので、魔よけの意味合いも持ちます。
  
  
亀甲(きっこう)   
南郷刺し子   
長寿吉兆の縁起物とされる亀の甲羅を表し、崩れず連続する様子から、繁栄の継続を意味します。
  
  
野分(のわき)   
南郷刺し子   
野分は「嵐」を意味する言葉で、野に生える草を強い風が吹き分けている様子を表します。
  
  

 

七宝つなぎ(しっぽうつなぎ)   
南郷刺し子   
無限に連鎖する輪の様子から、人との縁や関係性が末永く円満に続くことを意味します。
  
  
柿の花(かきのはな)   
南郷刺し子   
実を結ばない柿の花はないことから、五穀豊穣や防虫など、生活に寄り添った意味合いを持ちます。
  
  
千鳥(ちどり)   
南郷刺し子   
語呂合わせで「千取り」ということから、勝負運が強くなる象徴だとされています。
  
  

 

   南郷刺し子

完成した半纏は、伊南川から水を引く大堰(おおぜき)や、道普請(みちぶしん)・建前(たてまえ)など、おもに共同作業の場で男性が着ていました。大切な晴れ着としての役割もあったようですが、魔よけなどの意味合いを持つことから、作業の安全を祈る意味合いもあったのかもしれません。男性にとって、地域の一大行事である大堰は、刺し子を見せ合いながら、奥さんを自慢する場でもあったそうです。


 

南郷刺し子   

一方で、女性の立場からすると、自分の技術が他人から評価を受ける場であり、大変な苦労があったはずです。それでも、半纏に個性を打ち出すことで、自分を主張することができる。「南郷刺し子」は、女性にとって、大切な存在であったに違いありません。


 

 

南郷刺し子会

 
《 南郷刺し子の復活 》

南郷刺し子   

「南郷刺し子」の文化は一度途絶えてしまいました。しかし、2009年(平成21年)のことです。南郷地域で開催された文化祭の会場を訪れた南郷婦人会のみなさんは、原良よしえ江さん(茨城県出身)が製作した「南郷刺し子半纏」を目の当たりにし、衝撃を受けたそうです。厚みのある生地で仕立てられた半纏に、規則正しく並んだ模様の数々。その場にいた会員の誰もが素朴な美しさに魅了されました。

「南郷刺し子」がもたらす驚きと感動を、多くの方に伝えたい。この経験をきっかけに、有志の皆さんによる「南郷刺し子会」が結成されました。


 

2010年(平成22年)の結成から11年目を向かえた「南郷刺し子会」。南会津町内のみならず、金山町や郡山市、北関東、首都圏に至る幅広いエリアに20人を超える会員が在籍し、これまで(2021年7月)に32枚の半纏を製作しました。

新型コロナの影響で全員が集まることは難しいものの、「日常生活のリズムを崩さず、自ら時間を見つけて刺し子に励む」ことを信条に、楽しみながら活動を続けているそうです。

南郷刺し子 南郷刺し子 南郷刺し子

 

 

南郷刺し子   

「南郷刺し子会」の会長である馬場純子さんは、刺し子半纏に「ぼろ接ぎ」という暗いイメージを抱いていたと話します。

貧しい、寒い、苦しい、辛い時代を生きた女性たちの手仕事程度にしか考えていませんでした。しかし、「南郷刺し子半纏」と出会ったとき、自分の考えが誤りであったことに気付きます。家族の健康、繁栄、安泰を願い、一針ずつ丁寧に描かれた模様は、深い愛情に裏付けられたものだということがわかったそうです。


 

 

《 南郷刺し子のベスト 》

「南郷刺し子会」では、南郷地域に住所を持つお子さんが1歳を迎えたときに、赤ちゃんベストをプレゼントしています。

これは、お子さんの健やかな成長とご家族の健康を願うもの。これまで(2021年7月)に贈ったベストは35枚に上るそうです。シンプルな工程ながらも、完成までには、多くの時間と労力を要します。ただ、作品が仕上がったときの喜び・充実感・達成感は、計り知れないもの。南郷刺し子の醍醐味の一つです。

南郷刺し子 南郷刺し子 南郷刺し子

 

 

また、刺し子文化を伝承していくためには、固定観念にとらわれることなく、幅広い価値観に対応しなければなりません。半纏を中心とした文化を維持しつつも、若い世代が手を伸ばしやすいアクセサリーや小物に、刺し子の要素を取り入れるなど、新しい挑戦を続けています。

南郷刺し子 南郷刺し子 南郷刺し子

 

 

※写真の一部は「広報みなみあいづ 2021年7月号」、「南会津町観光物産協会フェイスブック」、「南会津町観光物産協会ブログ」より

※文章の一部は「広報みなみあいづ 2021年7月号」より引用

南郷刺し子 南会津町観光物産協会 南会津町観光物産協会

 

 

動画「南郷刺し子」

 
南郷刺し子の様子を動画でも紹介しています。YouTube「おいでよ!南会津。チャンネル」でご覧ください。

 

 

奥会津博物館 南郷館

 
南郷刺し子「奥会津博物館 南郷館」は、伊南川の漁撈用具や奥会津の燈火用具、麻織用具と麻製品、屋根葺用具と火伏せの呪具、南郷の歌舞伎衣装など、南会津町南郷地域のかつての生活用品・民芸用品が展示されています。

また、保存されている曲家、山内家(県指定重要文化財、1753年建築)と斉藤家(町指定有形文化財、1780年建築)は、中を見学することもできます。

 

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