
都会ではできない人間らしい暮らし
南会津郡只見町は雪国会津の中でも一・二を争う豪雪地帯。そんな豪雪地帯の中でも特に雪深い毘沙沢(びしゃざわ)地区に住むのは、千葉県柏市から定住された今井博・富美恵ご夫妻。
| 今井さんご夫妻 |
今井さんのお住まいの毘沙沢地区は林道を越えた山頂にある為、雪が積もると除雪車が入れず、
徒歩で進まなければなりません(幸いにもブルトーザーが圧雪してくれるので、腰まである雪をかき分けてという事はありません)。
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取材に訪れたのは天気も良く、林道も圧雪されたばかりで非常に恵まれた日でした (念のため持って行った和かんじきは使わなくて大丈夫でした) |
歩みを止めると物音一つしない雪山。一本道なので迷子になる心配はないのですが、若干の心もとなさも。
途中、鳥が鳴き声が聞こえるとギョッとすると同時に生き物の存在を感じられてホッとします。歩く事、およそ1時間。今井さんのお住いに到着。
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林道から見える今井さんのお住い。 ゴールが分かると人間もうひと頑張りできますね |
家の前に貯められた水は、屋根から落ちる雪を溶かす事に利用 雪国で暮らす生活の知恵を感じました |
奥様は雪山を登ってきた我々の労をねぎらおうと、
カレーライスとチーズケーキを準備して待っていてくれました。
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野菜もお肉もゴロっと入った手作りカレー。お代わりまで頂きました チーズケーキは撮影する前に食べてしまうという痛恨のミス 食いしん坊バンザイ! |
1時間の山登りの後という事もあり(たとえそれがなくとも)とても美味しいカレーでした!
お二人のお人柄もあり和やかな雰囲気の中で定住に関してお話を伺いました。
■今井さんご夫妻に田舎暮らしについて聞いた動画はコチラ
今井さんは只見町に定住する以前は、東京の建設設計事務所に勤務。誰もが知っているようなビルやホテルの建築に携わる建築家でした。趣味は家具作りで、只見町の隣町・南会津町にあるきこりの店にもよく家具の材料を買いに来ていたそうです。
男の趣味は凝りだすと止まらないところがあるもの。今井さんの家具製作用に材料や機材を置く工房が欲しくなります。そんな事を思っていた1994年、知り合いに紹介されたのが今のお住い。築およそ250年の古民家は当時とても人が住める状態ではなかったそうですが、建築家で古民家にも興味のあった今井さんにはとても魅力的に見えたそうです。
| 購入した当時の家 |
奥様は、「なんでこんな汚い家を欲しがるのだろう?」と呆れたそうですが、
ここに住むわけではないし、(主人の)遊び場として使うなら、環境も良さそうだしまあいいかとOKしたそうです。その6年後に移住する事になるとは思ってもみなかったみたいです。
念願の遊び場(工房)を手に入れた今井さんは、家具作りをするかたわら、この家を6年かけて直します。年間60日ほど通い、友達や仕事仲間と一緒に来たこともあるそうです。家の中は古民家の良さとおしゃれな雰囲気が同居したすばらしい空間でした。
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こちらが直し終わった後の家。一級建築士というのもあるのでしょうが、 個人でここまで直してしまうのは本当にスゴイ!! |
| 家の中は思わず住みたくなってしまう、居心地のいい空間でした |
南会津に定住された方々に定住の理由を聞くと、「田舎が好き」とか「自然が好き」といった理由が多いものですが、今井さん達は少し異なります。
1990年代後半になると日本経済はバブル崩壊の影響を受け、今井さんの勤める建築業界も大変厳しい時代に入りました。今井さんは激務で心身共に衰弱していったそうで、奥様に田舎でのんびり家具を作って暮らしたいというような事を口にしたそうです。これを聞いた奥様は「あの仕事が好きで好きでしょうがない夫が弱音を吐くなんてただ事ではない」と思ったそうです。当時、今井さんの会社の方で病気になったり亡くなったりする人が多く、「同じ一生なら好きな事をして欲しい。幸いローンの支払いも終わり、娘二人も大学を卒業したので」と奥様は移住に賛成したそうです。
こうして、30年務めた会社を辞め、2001年秋今井さんご夫妻は只見町に移住。今井さんは53歳でした。
「引っ越した当初は面白くてしょうがなかった。冬も家に籠って家具作りができる」
都会にいた頃の知人や友人経由で家具の製作を受け、家具作りに没頭する今井さん。
| 今井さんが製作されたテーブル | 今井さんが製作された椅子 |
一方、奥様はというと元来自然にあまり興味がなく、虫も嫌いというインドア派。外にはあまりでないことから室内でできる「裂き織り」を始めるようになりました。「裂き織り」とは古くなった布を細かく裂き、その布をよこ糸の代わりに使って小物や衣類を作る事。普通の織物と違って独特の味わいがあり、芸術的にも注目されているそうです。
| 作業途中の裂き織りの様子 | 奥様の作品。ポーチやペンケースなど |
また、実はお二人は同じ学校の吹奏楽部。
今井さんはホルン、奥様はフルートを演奏する趣味があり、
「都会と違って、この場所は周りに人がいないので、近所迷惑を心配しないで楽器が演奏できる」
いつの日かオーケストラに参加して演奏してみたいと今井さんは仰っていました。
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ホルンを吹く今井さん 実は抜歯したばかりでちゃんと吹くことができない中、 チャレンジして頂きました |
フルートを吹く奥様 他にもピアノも引けるのだとか
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田舎での生活を十分に満喫していた今井さんですが、
当初あまり地元の人達との交わりはなかったと言います。
「人里離れていた事もあるが、主にここと東京という関係で生きてきた。しばらくしてからですね。地元の人とコンタクトを取るようになったのは。地元の人と交流する事で生活の質が変わってきた」
今井さんは、山のふもとにある廃校を利用した体験施設「森の分校ふざわ」の運営行ったり、
地元で音楽会の開催など
「移住した当初は考えていなかったいろいろな経験ができた」
と言います。
今井さんに、田舎での生活の不便な点もお聞きしました。
「家の除雪とか何かが壊れたというトラブルがあったとしても、都会と違ってお金で解決できない事がたくさんあります。なので自分でやらなければならない。ある意味ではとても人間的、ある意味では戦いです。ですが前向きに考えれば、面白いことがいっぱいあります」
田舎は楽しいことばかりではなく、大変な事もいっぱいある。でもそれをひっくるめて人間的な暮らしというのではないかという今井さんの言葉はとても心に響き、お二人がとても魅力的に見えたのも人間的にしっかりと生きているからなのかなと思わずにはいられませんでした。
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